SOSHITE UNMEI TOIU OMOSA

この日はオール・バイト・デー。9.5-17.5でAD。20-25で共同。になる予定だった。まあ、そうなったんだけど。

選挙関連の記事、朝刊が、公示日ということもあって、A4で168枚もあった。ありえねー。プリンタの故障もあって、2時間もかかり、結局3本しかできなかった。そろそろ文字起こしもだるいなあ、とか思ったりしてな。だるだるで、やはく帰りたいなーとか思ってた。

で、17.5になって、ソッコーで出て、20時までどうしよっかなー、彼女でも呼び出すかなーとか考えてたり、スタバでも行くかなーとか、結局やめて、少し早いんだけど、大門まで出て、新橋に行って、なに食おうかなーとか考えて、大戸屋ないかなーって探してて、でもなくて、結局マックでマックチキンコンボにして、250円払って、水もらって、3階の禁煙席に行って、1973年のピンボール読みながら、やたらポテトMをむしゃむしゃ食ってた。

そしたら。携帯が震える。植草教授モデルが震える。パカってあけると、知らない番号。一応出ることにしている。「もしもし誰かわかりますか」とか言われたんで、あーやっべー電話番号控えるの忘れてたわー、あるいはもう必要ないって切っちゃったかなーとか考えながら、聞こえないふり装って「もしもし」って連呼してたら「カタノです」とかいっちゃうもんだから、マジたまげた。

手紙届いたんだ。と思う。ふと、そこの階段に座り込んだ。「元気ー?」とか「強いね」とか言われて、あーなつかしいなーとか思ったんだけど、すこししゃべり方が変わってて、へこむ。まあしかたねえよね。3年もあれば、人間変わるし――でもかわってほしくなかった。ベッドによこになって、寝転んでたときみたいに、甘えた声出して、少し恥ずかしがっているような目をしてほしかった。絶対電話越しに、そんな目してないんだろうな、って思った。あ、こいつは、どっちかっていうと、今更手紙だかVHSだかを出してきやがって、本当に未練がましいヤツなんだなあはは、なんて思って、笑ってんだ。ってわかった。

違うんだよ。違うんだ。おれはもうあんたにそんなつもりじゃないんだ。わかるか。終わりを終わらせたくて、それを送ったし、映画を撮ったんだ。悪いけど、そんなつもりじゃない。

だから、電話かかってきて、それで、なんとなく喋ってた。おれが思い描いていたカタノ像はどんどん崩れ去ってて、むしろ俺の方が大人になってるな、とか考えて、でも少しは最近のこと気になるから、「いまなにやってんの?」とかたずねて「中学校の先生」とか言って「英語?」「英語」「おめでとう」なんつってみたり、いやそれは本当によかったと思うんだけど、でも本当は祝ってなんかなくて。

ねえ、友達が言ってたんだ。前に。一度完成された思い出は掘り返さない方がいいって。

「映画みたの?」ってきいたら、「週末じゃないと無理だねー」とか言って、確かに忙しいかもしれないけど、そんな長いものじゃないって、手紙にも書いたし、それぐらいみてくれてもいいじゃんとか思って。あー、こいつ本当に思いやりがなくなったなーって。てか、まあしかたねーか。おれ彼氏じゃないんだし「一緒に住んでるの?」「住んでるよ」やっぱりですか。まあ、別にへこまないし、そうだって知ってたし。まあ、お幸せに。

もろくも崩れさる。もろくも崩れ去る。いま扉が閉じかけようとしてる。意図的に引き伸ばされた屋敷の長い廊下は唐突にその出口を僕の前にぶら下げている。そして僕はいつの間にかにその扉を出ようとしている。ノブはこの手の中にある。

「今どこにいるの?おれ新橋」「あたしも新橋に向かってる偶然だね」そこでおれは場所を聞き出し、リクルートらへん、とかいうから、少し迷った。やめとけよ。これ以上失望するのは。これ以上硝子を壊すようなまねをするのは。おもわず足が走り出す。車道を走ってた。虎ノ門のほうの出口だろうから、って読んで、おれはもうこのときには絶対あえるってわかってた。おれはわかってる。よくしっている。おれの人生において、こういうシーンは絶対にその誰かとめぐりあえるって。

事実、俺は先にカタノを発見する。肩ぐらいまでの髪に短く切ってた。っていうのが第一印象。そんで、あんまりかわいくねーな。っていうの第二印象。第三印象が、こいつとセックスしたことがあるのかよおいっていう意味不明感。少し太ってて、グレーのパンツであんまセンスよくなくて、相変わらず黒髪で、一気になえた。おれと目が合った瞬間、いちおう手を振ってみたけど、あっちはあはは、みたいな。あははみたいな。なにさげすんでんだよ、おい。でいらいらして、でもちょっとだけ高揚して、一応Cメールで、お礼に、「お元気そうでなにより、お台場楽しんで」ってメールして立ち去った。

会えたことよりも、映画を撮って、それを送って、こういう状況を生めた、ということに俺はまず喜びを見出す。そして失われた3年間をようやく取り戻す。もうおれはいける。んだと。思い、汐留めの歩道橋の中腹でよっし、とガッツポーズ。

共同に行っても、興奮冷めやらなかったけど、でもCメールはまだかえってきてなくて、ちらちら確認しながらのバイトとなったけれど、だんだん冷めてきて、あれ?なんだこの虚無感。みたいな。通り一遍の喜びのあとに、悲しみがおれの上にのしかかった。そんときはよく分かんなかったけど、とにかく神様今日は12時にあがらせてくださいって思ったのは事実。そして、余計なことをしたかもなって後悔したのも事実。あったことに興奮したんじゃなくて、一つのことを成し遂げた自分に興奮してたんだってだんだん分かる。

そして12時くらいになって、メールがかえってくる。それがまた、幼稚でたいしたことない女だな、いままで付き合ってきた女の方がずっといいよって思った。トモとか、ミワとか、ユキとかのほうが。ただの肉塊じゃねーの?って思った。

終わってから、駅に行って、少し感傷的な気分でナグの演奏を聴いて、なこうと思ったけど泣けなくて、そして案外いい曲で、よかった。少ししてから、飲みに行って、今書いたようなことを話したら、「後悔してるの?」って聞かれて「すこし」って言ったら、「でも手段は違えど、いずれかはそうなってたんだからいいんだよ」ってナグが言った。「本当によかったの?」って聞いたら、「考えた結果でたことは、それ以外にはもうないんだ。絶対に。」って言われた。なんか説得力があった。そのときはバドワイザー

それでも話し足りなくて、やつに電話してしまった。きっと困らせた。好きって言ってたやつが、うそついてて、その上、好きなやつが他にいたって思われたから。だからそうじゃねーって。女ってのはなんでそんな誤解すんだよ。ちげーよ。まあ、いいや。こいつも友達だってわかってるから。絶対付き合えないってわかってるから。

結局長い屋敷をでたとき、そこから見える景色は闇だった。リコンストラクティブな要素はなにひとつ見当たらない状態、それがおれを内側から食い破ったんだと思う。でも俺はかえっていま、結局これを書いてるのは翌日のよるなんだけど、そこはまだ夜中なんだと思う。日が昇らないから、何も見えてこないんだと。

きっとカタノはもうどうでもいい存在。過去はたまーに思い出すかもしれないけど、もう以前のように胸をつついたり、しないだろう。俺は笑ってそれを見過ごしてこれから生きていくことが出来る。そういう淡い期待。

ケン、フルウネ、ナグ、タカホ、ありがとう。一つ終わったよ。映画、ありがとう。ひとつ大人になった。ひとつ、青春が終わった気分。いま、引き伸ばされた終わりが終わる。おれはきっとこの日を忘れない。


1973年のピンボール (講談社文庫)

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ダンス・ダンス・ダンス(上) (講談社文庫)

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そして僕らは踊り続けるんだ。できるだけ上手に。