MEMO

○ こんな夜更けにバナナかよ / 渡辺一史

 なんといっても題名がいい。少しセクシャラスな隠語かと思わせつつ、ところがどっこい真っさかさま、介護の話。介護現場での苦悩を語る。正しく、「こんな夜更けにバナナかよ」と言わしめる要介護者。表紙はヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコを彷彿とさせるあのバナナ。

○ 幽霊たち / ポール・オースター

 柴田元幸の名訳。人間の妄想と想像力はここまで広がり続けるのか。推理小説風仕立てでなければ、もっとのめりこめた。皮肉なことに安部公房の『砂の女』を頭の片隅におきながら読むことになる。現実の設定の中だけで進む『幽霊たち』に比べ、公房は現実を打ちたて、その中に虚構を織り交ぜる複合的で非現実的な部分が際立つ。好みの問題にもよるが、僕は明らかに公房のような非現実観念的世界を愛す。