KAMEN*USO

 彼女はその夜、夢を見る。彼女はそれが夢だとただ分かる。

 どのようないきさつがあったかはわからない。とにかく――自分そっくりの仮面をかぶせられている。仮面が勝手に嘘をしゃべり倒す。鼓膜が震える。ひどい耳鳴りがして内容が伝わってこない。けれど彼女には何故かそれが嘘だと分かる。仮面の話に友達が目を丸くさせ、耳を傾け、そうかそうかと頷く。嘘と事実が織り交ざっているから、友達はそれが嘘だと気づくことができない――文節のそれぞれは正しいのだが、全体の真実のバランスが明確に不釣合いなのだ。

 「それにしたって」と彼女は仮面に封された場所で思う。汗で少し湿っている。「こんなのはあんまりじゃない。どうしたってこんなの嘘じゃない」

 仮面は様々な嘘をつく、赤面もなく。話の筋が少しでも千鳥足を踏もうとすると、その都度添え木をするかのようにディティールについて話し、現実感を浮き上がらせ、友達を引っ張っていく。彼女はマリオネットを見ているような気分になり、あまりのひどい嘘で吐き気を感じる。喉の奥に異物感を感じる。それはとても腫れぼったい。

 仮面は埋められていたものを一通り掘り返したかのように、一呼吸おく。そしてキリキリと仮面は裏返る。彼女の目と鼻の先に彼女そっくりの仮面がいる。彼女は言う。「なぜそんな嘘をつくの」「なぜあなたはそれが嘘だと分かるの」「だってそれは嘘じゃない。まるっきり嘘。」そこで仮面は初めて笑う。「何処が嘘だって言うの?」

 しかし彼女は仮面の嘘をうまく指摘することができない。彼女はひどい耳鳴りのせいでよく聞こえなかったのだ。

 「ほら嘘じゃないじゃない」仮面は上手に笑う。目と鼻の先で。彼女は何も言うことができない。ただ鋭く反抗のまなざしを向けることしかできない。仮面は続ける「あなたは私のことを嘘だと言うけれど、」その時彼女の耳鳴りがぷつりと途絶え、全ての音が鮮明に聞こえ始める。「今この瞬間、あなたが嘘になったのよ」