美しい人はもうこれ以上明日が来るのが怖かった

r-mutt2008-02-20

美しい人がいた。その人がピアノを弾くと、溜息がいつも編曲された。その人が歩くとだれもが振り返り、残り香がいっそう胸を締め付けた。

美しい人はまた夜遅くに扉を閉めた。バタンという音を聞いてようやく自分だけが知っている表情に戻った。家族にもましてや彼氏にも見せたことのない普通の表情。美しいと言われるのが当たり前で、自然の表情なんて出せなかった。靴を脱ぐとそのまま洗面台の前に立ち、すぐにしたくもない化粧を落とすのが決まり事だった。蛇口をひねり、クレンジングを手にした。鏡を見るのが好きだった。自分の美しい顔を見るのが好きだった。

眼尻に細い線を見つけた。

ケータイの呼び出し音が聞こえる。明日の予定だ、でなきゃ、ごめんでられない、でたくないなにこれなんだっていうのよなにをしたのあたしみんなのいうとおりおもうとおりにしてき